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大阪高等裁判所 昭和34年(う)398号 判決 1966年2月19日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

<前略> (二)原判決が騙取の容体を歳出円支払証票としている点について。

各所論の要旨は、歳出金支払証票(以下単に支払証票とも称する)は有価証券でも、金券でも財物でもない。すなわち、支払証票はこれとは別途に指定局より切手、印紙の売さばき人宛に発行せられる歳出金支払通知書(兼受領証)――これがいわゆる金券である――による金額を右の歳出金支払通知書(兼受領証)の所持人に対し、規定の手続により払い渡され度い旨の単なる依頼通知書にすぎないのである。一つの照会文書で一般人の手に渡ることのない特定局備付の単なる手続用書類にすぎず、もとより財物と目すべきものでないというのである。

よつて案ずるに、原判決が騙取の客体を歳出金支払証票としていることは原判決書により、従つて右支払証票が財物でないとすれば、原判決は罪とならない事実を罪となるものと断じ違法であることになる。ところで、歳出金支払証票は原判決が証拠(証第一三号等)により認定しているとおり、売さばき手数料の支払に関し、指定局(本件では東淀川郵便局)から特定局(本件では元今里郵便局)に送付されるものであるが、売さばき手数料の支払の手続は、先ず売さばき人から手数料の請求書を特定局に差出させ、特定局長がその余白に相違ない旨を証明の上、これを指定局に回送し、指定局では、右請求書を審査して、歳出金支払通知書及び歳出金支払証票を発行し通知書は売さばき人に、証票は特定局長に送付され、売さばき人は右の歳出金支払通知書に記名押印して特定局に提出し、特定局はこれと支払証票とを照合し相違ないことを確認の上、所定の現金を支払うものである。もつとも原審証人浜本禎三の原審公判廷(第一六回)の供述、証人岡部一雄の原審公判廷(第二四回)の供述及び証第一〇号、第一二号、第一五号、第一六号によれば大阪郵政局の管内では本件原判示第四の(一)の当時指定局(本件では東淀川郵便局)から特定局(本件では元今里郵便局)に支払通知書と支払証票とが共に送付され、特定局では局長がこの両書類によつて売さばき人をも代表して手数料を現金化し、その現金を切手、印紙の売さばき人に渡していたことが認められる。(被告人等は当時行われたこの便宜手続を利用することにより、名義を借りた売さばき人等に、自己の行為の内容を知られることなく行動し得たものである。)なるほど支払証票(証第一三号)の文面によると、支払証票は金員の所定の手続による払い渡しの依頼書であり、歳出金支払通知書(兼受領証)はこれを提出して金員の支払いを受け得る書面であつて、そして右の両書面が揃い照合されて手数料の支払いがあるのである。そうするとこの両書面はこれを合一してみると、財産的価値があり財物であることはいうまでもないが、しかし右両書面を別々に考えても、支払通知書の方は、これは郵便局に提出することにより金員の支払を受け得る書面で財産的価値を有するものと認められるし、支払証票にしても、これは一般人の手に渡るものでなく、郵便局に備え付けられるものであるけれども、この文書と照合されて始めて支払通知書は十分効力を発揮し、手数料の支払も認められるものであつて、なお郵便局にとつては金員の支払の正当性を確認するための書面であり、有価証券的性格はもたないけれども、なお財産的価値のあるものといわなければならない。(この書面を窃取した場合、財物の窃取として窃盗罪を認めざるを得ないであろう)してみると、支払証票だけでも財物と認められないものでなく、原判決がこれを財物と認めたことに誤りがあるとはいえない。本論旨も理由がない。<後略>(田中勇雄 三木良雄 山田忠治)

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